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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)9234号 判決 1987年5月11日

原告 佐藤喜市

<ほか八二名>

右八三名訴訟代理人弁護士 長田喜一

右訴訟復代理人弁護士 岡田康男

被告 松島杲三

右訴訟代理人弁護士 大政満

同 石川幸佑

同 大政徹太郎

被告 株式会社 サンゴルフ マネージメント

右代表者代表取締役 大谷清吾

右訴訟代理人弁護士 原謙一郎

同 伊藤喬紳

主文

一  被告松島杲三は、別表欄記載の原告らのうち、原告佐藤喜市、同今西常夫、同中條富夫、同木田俊吉、同今鉾博男、同土屋允、同田中德夫、同山本薫、同湊道夫、同橋本哲雄、同青木貞敏、同米内山義正、同大里政枝、同笠原昭夫及び同戸田蓁に対し、各金一一〇万円及びこれらに対する昭和五四年一〇月一五日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  前項記載の原告らの被告松島杲三に対するその余の請求及びその余の原告らの被告松島杲三に対する請求をいずれも棄却する。

三  被告株式会社サンゴルフマネージメントは、別表欄記載の各原告らに対し、同表欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五四年一〇月一五日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

四  訴訟費用中、原告佐藤喜市、同今西常夫、同中條富夫、同木田俊吉、同今鉾博男、同土屋允、同田中德夫、同山本薫、同湊道夫、同橋本哲雄、同青木貞敏、同米内山義正、同大里政枝、同笠原昭夫及び同戸田蓁と被告松島杲三との間に生じた費用は、被告松島杲三の負担とし、その余の原告らと被告松島杲三との間に生じた費用は、その余の原告らの負担とし、原告らと被告株式会社サンゴルフマネージメントとの間に生じた費用は、被告株式会社サンゴルフマネージメントの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告松島杲三は、別表欄記載の各原告らに対し、同表欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五四年一〇月一五日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  被告株式会社サンゴルフマネージメントは、別表欄記載の各原告らに対し、同表欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五四年一〇月一五日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(被告松島杲三に対する請求)

一  請求原因

1 (当事者等)

サングリーン開発株式会社(以下「訴外会社」という。)は、ゴルフ場の経営等を業とする株式会社であり、被告松島杲三(以下「被告松島」という。)は、同会社の取締役であったものである。

2 (訴外会社・原告ら間の本件各入会契約締結)

(一) 原告らは、訴外会社との間で、別表欄記載の各日に、次の(1)ないし(3)記載のとおりの内容のサンカントリークラブ小鹿野コース入会契約(以下「本件各入会契約」という。)をそれぞれ締結した。

(1) 訴外会社は、埼玉県秩父郡小鹿野町及び同吉田町所在の約三六万坪の土地に、一八ホールを擁するゴルフ場サンカントリークラブ小鹿野コース(以下「本件ゴルフ場」という。)を完成する。

(2) 原告らは、訴外会社に対し、それぞれ別表欄記載の各金員を入会保証金として預託する。

(3) 原告らは、本件ゴルフ場の諸施設その他の付属機関を優先的に利用することができる。

(二) 原告らは、訴外会社に対し、本件各入会契約に基づき、入会保証金として、別表欄記載の各日に同表欄記載の各金員をそれぞれ支払った。

3 (訴外会社の債務の履行不能)

しかるに、訴外会社は、本件ゴルフ場の用地確保も終えぬまま、昭和五一年一〇月二〇日、銀行取引停止処分を受けて倒産し、本件ゴルフ場の開場は不能となった。

4 (原告らの損害)

(一) (入会保証金相当額の損害)

原告らは、前記3の訴外会社の債務不履行により、2(二)記載の各入会保証金相当額の損害を被った。

(二) (弁護士費用)

原告らはまた、原告ら訴訟代理人に本訴の提起遂行を委任するを余儀なくされ、その報酬として、右(一)の各金員の二割の金員を支払うことを約し、同額の損害を被った。

5 (訴外会社の法人格の形骸化による法人格否認)

訴外会社は、次に述べるとおり、その実体は被告松島の個人企業にほかならず、その法人格は全くの形骸であるから、原告らは、訴外会社の法人格を否認し、被告松島に対して、4記載の原告らの損害の賠償を請求する。

(一) (被告松島の支配的地位)

(1) (資本的・人的支配)

ア 被告松島は、訴外会社設立当時、いずれもゴルフ関連産業である株式会社フタバゴルフ(以下「フタバゴルフ」という。)、株式会社ゴルフニュース及び有限会社サンゴルフサービス(以下「サンゴルフサービス」という。)の代表取締役であり、被告会社や株式会社ダンロップスポーツエンタープライズ(以下「ダンロップスポーツエンタープライズ」という。)の取締役であった。フタバゴルフ及びサンゴルフサービスは被告松島が資本的、人的に支配する個人企業であり、サンゴルフサービス、被告会社及び訴外会社はいわゆるサングループを構成して被告松島がこれを主宰していた。

イ 訴外会社は、大久保貢(以下「大久保」という。)及び羽鳥勝義(以下「羽鳥」という。)が、羽鳥の生まれ故郷である小鹿野町に本件ゴルフ場を設置しようとしたものの、ゴルフ場開設に関する知識も信用もなかったため、ゴルフ関連産業の業界に詳しく、知名度も高い被告松島に対し、同被告が右事業の企画者となってこれを遂行することを提案し、被告松島がこれを承諾して、サングループの傘下に設立した会社である。

ウ 被告松島は、訴外会社の株式二万株のうち一万四〇〇〇株を保有していた。

エ 被告松島は、サングループ各社の代表取締役の上位にあってサングループを統括する長としての地位を有する者として、他の役員及び従業員から会長と呼称されていた。

(2) (会社運営に関する決定権)

ア (業務方針の決定と指揮命令) 訴外会社においては、取締役会は開催されたことはなく、同社の運営に関する重要な事項はすべて被告松島が独断で決定して大久保及び羽鳥らを指揮命令していた。

イ (資金管理) 被告松島は、独断で、自己個人のために訴外会社から資金の交付を受けたり、あるいは同被告の主宰する被告会社に対して使途不明の融資をさせるなどして訴外会社の資金管理を独占していた。

ウ (人事管理) 被告松島は、訴外会社を始め、被告会社、サンゴルフサービス、フタバゴルフの人事権を完全に掌握し、フタバゴルフの業務のために他社の従業員を使用するなどしていた。

エ (大久保の地位) 大久保は、訴外会社の名目上の代表取締役にすぎず、被告松島の忠実無比の部下ともいうべき存在であって、訴外会社の代表者印は、被告松島においてこれを管理していた。

(二) (財産及び業務の混同)

(1) 被告松島は、自己個人のために訴外会社から資金の交付を受けたり、あるいは、同被告が経営するサングループの他社に対して不自然な融資をさせるなど、訴外会社の財産と被告松島の財産とを混同していた。

(2) 被告松島は、訴外会社を含め、被告会社、サンゴルフサービス、フタバゴルフの従業員を相互に派遣したり、フタバゴルフの業務のために他社の従業員を使用するなど、訴外会社の業務を被告松島の経営する他社の業務と混同していた。

6 (訴外会社の法人格の濫用による法人格否認)

また、被告松島は法律の適用を回避するため、訴外会社の法人格を濫用したものであるから、原告らは訴外会社の法人格を否認し、被告松島に対して4記載の原告らの損害の賠償を請求する。

(一) (被告松島の支配的地位)

5(一)のとおり。

(二) (事業不成功の場合の債務免脱の意思)

本件ゴルフ場の開設は、総額約三四億円にものぼる巨額の費用を要する大規模な事業でありながら、被告松島は、事前にゴルフ場用地の確保も、ゴルフ場の造成に関する法的規制や行政指導の状勢等についての十分な調査もせず、かつ、右事業資金の殆どをすべて会員募集により得られる入会保証金によってまかなうとの資金計画のもとに、資本金わずか一〇〇〇万円の訴外会社を設立し、右事業を開始した。

このような事業の巨大さ、事業計画及び資金計画の杜撰さ並びに(一)の被告松島の支配的地位に鑑みれば、被告松島が、右事業の成功の際はその巨額の利益の大部分を享受する意思でありながら、他方、事業の不成功の際には、債務を免脱して被告松島自身の経済的損失を免れるために訴外会社を設立したことが明らかであるから、被告松島の訴外会社の設立は、法人格の濫用というべきである。

7 (商法二六六条の三に基づく責任)

仮に、5、6が認められないとしても、

(一) 被告松島は、訴外会社の設立時である昭和四八年二月一五日から同年四月五日までの間、同会社の取締役であった。

(二) 本件ゴルフ場の開設は、建設費総額約三四億円を要する大規模な事業であり、利害関係者が複雑多数であって、専門的知識を要する事業であるから、被告松島は、訴外会社の取締役として、会員募集に先立ち、用地確保のための地主との事前協議、当該事業に関する法的規制及び行政指導の現状と改定の可能性等の調査並びに関係行政官庁との事前協議を十分になし、かつ、事業資金調達について客観的合理的な資金計画を立案すべき義務があり、あるいは代表取締役大久保においてこれらを確実に実行すべく監視すべき義務があるのに、該事前協議・調査を怠り、右事業費の殆どすべてを会員募集により得られる入会保証金でまかなう予定で他に客観的合理的な資金計画を立てないまま、代表取締役大久保において漫然会員募集を開始するに任せ、もって、本件各入会契約が締結されたものであるから、被告松島には、取締役としての職務を行うにつき、重大な過失があったものというべきである。

(三) 被告松島の職務懈怠による原告らの損害

(1) 入会保証金相当額の損害

原告らは、被告松島の右取締役としての職務懈怠により、2(二)記載の各入会保証金相当額の損害を被った。

(2) 弁護士費用

原告らはまた、原告ら訴訟代理人に本訴の提起遂行を委任するを余儀なくされ、その報酬として、右(一)の各金員の二割の金員を支払うことを約し、同額の損害を被った。

8 よって、原告らは、被告松島に対し、主位的には債務不履行に基づき、予備的には商法二六六条の三に基づき、それぞれ損害賠償金として別表欄記載の各金員及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和五四年一〇月一五日から各支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は知らない。

3 同3の事実は認める。

4 同4の事実は知らない。

5(一)(1) 同5(一)(1)アの事実中、被告松島が、訴外会社設立当時、フタバゴルフ及びサンゴルフサービスの代表取締役であり、被告会社及びダンロップエンタープライズの取締役であったことは認めるが、その余は否認する。同イの事実中、本件ゴルフ場の開設が羽鳥及び大久保において羽鳥の生まれ故郷である小鹿野町にゴルフ場を開設しようとしたことに端を発していることは認め、その余は否認する。同ウの事実は否認する。被告松島は、二万株中五〇〇〇株を保有していたにすぎない。同エの事実は否認する。

(2) 同5(一)(2)のアないしウの事実は否認し、同エの事実中、大久保が訴外会社の代表取締役であったことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同5(二)の事実はすべて否認する。

6(一) 同6(一)の事実に対する認否は同5(一)の事実に対する認否のとおり。

(二) 同6(二)の事実中、訴外会社が設立時資本金一〇〇〇万円であったことは認め、その余はすべて否認する。

7 同7(一)の事実は認め、同7(二)の事実は否認する。同7(三)の事実は知らない。仮に被告松島には取締役としての職務を執行するについて重大な過失があったとしても、原告今井常夫、同木田俊吉、同土屋允、同戸田蓁以外の原告らは、被告松島が訴外会社の取締役として登記されていた期間内に入会金を支払っていないから、その損害は、右被告松島の職務執行についての重過失とは相当因果関係がない。

(被告会社に対する請求)

一  請求原因

1 (当事者等)

訴外会社は、ゴルフ場の経営等を業とする株式会社であり、被告会社は、ゴルフ場等スポーツ施設の会員募集代行等を業とする株式会社である。

2 (訴外会社・原告ら間の本件各入会契約の締結)

(一) (本件各入会契約の締結)

被告松島に対する請求原因2(一)のとおり。

(二) (入会保証金の支払い)

同2(二)のとおり。

3 (訴外会社の債務の履行不能)

同3のとおり。

4 (原告らの損害)

(一) (入会保証金相当額の損害)

同4(一)のとおり。

(二) (弁護士費用)

同4(二)のとおり。

5 (訴外会社の被告会社に対する貸金債権の存在)

訴外会社は、被告会社に対し、昭和四八年五月一五日から昭和五〇年二月二五日までの間、一五回にわたり、合計一億四一五〇万六三三〇円を貸し渡し、右貸金の残額は、六三五〇万三七〇七円である(以下「本件貸金債権」という。)。

6 (訴外会社の無資力)

訴外会社は、昭和五一年一〇月二〇日、銀行取引停止処分を受けて倒産し、無資力である。

7 よって、原告らは、被告会社に対し、訴外会社に代位して、金銭消費貸借契約に基づき、それぞれ別表記載の各金員及びこれに対する本件訴状送達の後である昭和五四年一〇月一五日から各支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1ないし3の事実は認める。

2 同4の事実は知らない。

3 同5、6の事実は認める。

三  抗弁(相殺)

1 相殺の自働債権

(一) 被告会社は、昭和四八年四月一日、訴外会社との間で、左記の会員募集及び広告宣伝委託契約(以下「本件委託契約」という。)を締結した。

(1) 訴外会社は、被告会社に対して、本件ゴルフ場の会員募集、広告宣伝の各業務を委託する。

(2) 訴外会社は、被告会社に対し、本件ゴルフ場入会者の預託した入会保証金の一五パーセントの金員を手数料として支払う。

(二) 訴外会社は、本件ゴルフ場を開場することなく昭和五一年一〇月二〇日倒産したため、右委託契約に基づく会員募集、手数料支払いの各債務は履行不能になった。

(三) 被告会社は、本件委託契約の履行として、昭和四八年三月から同年一二月までの間に、合計七〇五八万五〇一〇円の広告宣伝費の支出を余儀なくされたが、(二)により、訴外会社は右同額の損害を被った。

2 相殺の意思表示

被告会社は、訴外会社に対し、昭和四九年四月八日、右損害金をもって、本件貸金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はいずれも知らない。

第三証拠《省略》

理由

第一(被告松島に対する請求について)

一  請求原因1(当事者等)の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、請求原因2(訴外会社・原告ら間の本件各入会契約締結)の事実が認められる。そして、請求原因3(訴外会社の債務の履行不能)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因5(訴外会社の法人格の形骸化による法人格否認)について

原告らは、訴外会社の法人格は全くの形骸であって実体は被告松島個人であると主張して、その法人格を否認し、被告松島に対し、訴外会社の債務不履行に基づく損害賠償を請求しているので、次に、右法人格の形骸化の有無について判断する。

1  まず、請求原因5(一)(被告松島の支配的地位)について検討する。

(一) 同5(一)(1)(資本的・人的支配)について

被告松島が、訴外会社の設立当時、いずれもゴルフ関連産業を営む会社であるフタバゴルフ、サンゴルフサービスの代表取締役であったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(1) 被告松島は、訴外会社の設立当時、ゴルフ及び一般運動具の製造販売等を業とする株式会社フタバゴルフ並びにゴルフ会員権の売買等を業とする有限会社サンゴルフサービスの各代表取締役であって、その他、ダンロップスポーツエンタープライズ等複数のゴルフ関連企業に、役員、相談役等として参画していた。

(2) 訴外会社は本件ゴルフ場の開設のために設立された会社であるが、右設立の経緯は、サンゴルフサービスの取締役であった大久保及び同人の知人である羽鳥が、昭和四七年六月頃、羽鳥の生まれ故郷である埼玉県秩父郡小鹿野町の町長がゴルフ場の誘致に積極的であったことなどから、同町を含む地域にゴルフ場を開設し経営すれば成功の見込みがあるとの目算をもったものの、同人らが若年であり、ゴルフ場建設の経験もなく、また信用も知名度も低かったことから、大久保において、昭和三〇年代からゴルフ関連企業の経営の経験を積み、該業界における知名度も相当程度高かった被告松島に、同被告の経営するサンゴルフサービスの関連会社として新たに株式会社を設立して、右ゴルフ場開設の事業(以下「本件ゴルフ場開設事業」という。)を遂行することを提案したところ、同被告もこれに賛同して、昭和四八年二月一五日設立されるに至ったものである。

また、右ゴルフ場開設事業と関連して、訴外会社の設立に先立ち、大久保は、被告松島に対し、既設のゴルフ場会員権の売買を行うサンゴルフサービスの関連会社として、新設のゴルフ場の会員募集代行等を業とする株式会社を設立することを提案し、被告松島の賛同を得て、昭和四七年七月二八日、被告会社が設立されていた。

(3) 右各設立時、訴外会社においては、大久保が代表取締役に、被告松島及び羽鳥が取締役に就任し、被告会社においては、羽鳥がその代表取締役に、被告松島がその取締役に就任したが、被告松島は、被告会社については、訴外会社の設立よりも前に右取締役を退任した。しかし、被告松島は、これらの役職にかかわりなく、大久保、羽鳥らから会長と呼称されていた。

(4) 被告会社及び訴外会社は、サンゴルフサービスから「サン」の文字を踏襲してそれぞれ株式会社サンゴルフマネージメント、サングリーン開発株式会社と名付けられ、サンゴルフサービスと連名でテレビ、ラジオや雑誌で広告をなしていたものであり、かつ、右広告においては、サンゴルフサービスが本件ゴルフ場開設事業を計画しているかのように宣伝されていた。

(5) サンゴルフサービス(資本総額三〇万円)の有限会社持分保有の割合は、被告松島が約八〇パーセント、大久保が約二〇パーセントであり、訴外会社(設立当時資本金一〇〇〇万円、発行済み株式総数二万株)及び被告会社(設立当時資本金一〇〇万円、発行済み株式総数二〇〇〇株)の株式保有の割合はそれぞれ、訴外会社については被告松島が五〇パーセント、大久保及び羽鳥が各二〇パーセント、被告会社については、被告松島及び大久保が各四〇パーセント、羽鳥が二〇パーセントであった。

(6) フタバゴルフの役員は、殆ど被告松島の家族ないし親族で占められていたほか、被告会社及び訴外会社においても同被告の家族ないし親族が役員に含まれていた。

以上認定の事実によれば、少なくともサンゴルフサービス、訴外会社及び被告会社は、相互に資本的、人的に関連があって、いわゆるサングループを構成しており、かつ、被告松島において、同グループに対し、ある程度資本的、人的支配の可能性を有していたことが認められる。

(二) 請求原因5(一)(2)(会社運営に関する決定権)について

(1) 同5(一)(2)ア(業務方針の決定と指揮命令)について

本件ゴルフ場の開設は、もとは大久保及び羽鳥の間で計画されたものであって、大久保が被告松島にサンゴルフサービスの関連会社として訴外会社を設立することを提案し、被告松島がこれに賛同して訴外会社が設立されたものであることは前記(一)(2)認定のとおりであり、また、証人大久保の証言(後記措信しない部分を除く。)によれば、サングループ各社においては、正式の取締役会は開催されなかったものの、主として被告松島、大久保及び羽鳥の三者が会合するいわゆる役員会が毎月数回開かれ、右役員会において本件ゴルフ場開設事業の事業計画の立案、用地確保の進展状況の報告などがなされていたことが認められる。

証人大久保の証言中には、右役員会においては被告松島が一方的に発言し、独断で決定し、大久保らはこれに従うことを余儀なくされていた旨の証言部分もあるけれども、該部分は、にわかに措信することができず、かえって、《証拠省略》によれば、大久保は、右役員会等を通じて、本件ゴルフ場開設事業の事業計画、資金計画の立案に実質的に参画していたこと、昭和四八年四月頃には、本件ゴルフ場の開設の可能性を危懼する被告松島との意見の対立をみながら、結局事業続行を貫いたことが認められる。

(2) 同5(一)(2)イ(資金管理)について

ア 《証拠省略》によれば、被告松島は、大久保に対し、昭和四八年春、本件ゴルフ場の会員の募集が開始された頃から、数回にわたり、訴外会社から同人が代表取締役であるサンゴルフサービスに対して数千万円の融資をなすことを求め、訴外会社は、会員募集による入会保証金を右貸付資金として、その都度右融資に応じたこと、その後、昭和四九年頃、被告松島の要請により、右貸金債務は、被告会社がサンゴルフサービスに代わりこれを引き受けることとなったこと、訴外会社が保有していた霞が浦出島カントリークラブの会員権一〇枚について、被告松島が訴外会社から交付を受けたこととの各事実が認められる。

イ しかし他方、《証拠省略》によれば、昭和四八年五月以降、訴外会社は、大久保及び羽鳥に対しても、相当多額の資金(大久保については、帳簿上一〇〇〇万円以上)を、数次にわたり融資し、また、大久保の所得税を訴外会社において立替払いするなどしていることが認められるのであって、イの事実に右事実をあわせれば、結局、訴外会社の資金管理が杜撰であったものと推認することはできるが、訴外会社の資金の使途がひとり被告松島の決定に支配されていたものと推認することはできない。

(3) 同5(一)(2)ウ(人事管理)について

《証拠省略》によれば、訴外会社その他サングループ各社においては、被告松島の家族や親族も一部役員に含まれていたことが認められるものの、役員の選出、従業員の採否と配置について、被告松島がこれを掌握支配していたとの主張事実は、本件全証拠によってもこれを認めることはできない。

(4) 同5(一)(2)エ(大久保の地位)について

《証拠省略》によれば、大久保は、昭和三〇年代以来、被告松島が代表取締役として経営するサンゴルフサービスの従業員で、後にその取締役になったものであり、その後も、被告松島と大久保との間にはある程度の命令・服従関係があったことは認められるけれども、訴外会社において、大久保が、単に名目的代表取締役であって、ただ被告松島に従うだけの存在であり、訴外会社の代表者印も被告松島の管理におかれていたとの主張事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

以上(1)ないし(4)の認定を覆すに足りる証拠はなく、他に訴外会社においては、同社の運営に関する重要事項についてはすべて被告松島が独断で決定して大久保及び羽鳥らを指揮命令していたとの主張事実を推認させるに足りる証拠は存しない。

2  次に、請求原因5(二)(財産及び業務の混同)についてみるのに、まず財産の混同については、前記1(二)(2)認定のとおりであって、同ア認定の事実をもってしても、同イ認定の事実に照らすと、訴外会社の資金が専ら被告松島の個人財産と混同していたものと推認することができず、他にこれを推認させるに足りる証拠はない。また、業務の混同についても、前記1認定の事実全部をもってしても、被告松島が訴外会社の業務を関連会社の業務と混同していたことを推認するに足りないし、他に右主張事実を推認させるに足りる証拠はない。

3  以上1(一)、(二)及び2の事実を総合すれば、結局被告松島が、訴外会社を支配し、被告松島又は訴外会社の関連会社との間で財産及び業務の混同が生じているものということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よって、訴外会社の法人格が全くの形骸であるとの原告らの主張は採ることができない。

三  請求原因6(訴外会社の法人格の濫用による法人格否認)について

原告らはまた、被告松島は訴外会社の法人格を濫用していると主張してその法人格を否認し、被告松島に対し、訴外会社の債務不履行に基づく損害賠償を請求しているので、次に、右所論について判断するのに、請求原因6(一)(被告松島の支配的地位)の主張事実を認めることができないことは既に二1で認定したとおりであり、同6(二)(事業不成功の場合の債務免脱の意思)については、個人が、新規に開始する事業の不成功の際の当該個人の経済的損失を免れるために株式会社を設立したとしても法人格の濫用といえないことはいうまでもなく、かつ、原告ら主張の一連の事実があったとしても右主張事実は、未だ法人格の濫用を基礎づけるに足りないものというべきであるから、訴外会社は被告松島が法人格を濫用したものであるとの原告らの主張は失当である。

四  そこで次に、請求原因7(商法二六六条の三に基づく責任)について判断する。

1  被告松島が、訴外会社の設立時である昭和四八年二月一五日から同年四月五日までの間、同社の取締役であったことは当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(一) 被告松島は、昭和三七年、ゴルフ及び一般運動具の製造販売等を業とする株式会社フタバゴルフを、昭和三八年、ゴルフ会員権の売買等を業とする有限会社サンゴルフサービスをそれぞれ設立し、以来その代表取締役ないし取締役であったものであり、大久保はサンゴルフサービスに設立時から勤務し、昭和四六年一一月二四日、同社の取締役に就任していたものであるが、昭和四七年六月頃、大久保及び同人の知人羽鳥は、羽鳥の生まれ故郷である埼玉県秩父郡小鹿野町の町長が同町へのゴルフ場の誘致に積極的であったことなどから、同町付近にゴルフ場を開設し経営することを企図し、かつ、右事業の事業主体としては、同人らよりも信用及び知名度の高い被告松島の経営に係るサンゴルフサービスの関連会社として新会社を設立することが望ましいと考え、大久保において被告松島にその旨申し入れたところ、被告松島は、大久保、羽鳥及びゴルフ評論家である近藤経一らと現地を見たうえ、ゴルフ場になりうる地形であると判断して、同年末ないし翌四八年初め頃、これに応じることとし、昭和四八年二月一五日、被告松島、大久保及び羽鳥らを株主とし、大久保を代表取締役、被告松島及び羽鳥を取締役として、訴外会社が設立された。

(二) 訴外会社設立の前、昭和四七年の後半頃から、本件ゴルフ場開設事業の準備活動が行われ、訴外会社設立の頃までには、被告松島、大久保及び羽鳥らは、小鹿野町及びこれに隣接する吉田町にまたがる山林、畑の地域に面積約三六万平方メートル、一八ホールの本件ゴルフ場(サンカントリー小鹿野コース)を開設する計画を立てていたが、右約三六万平方メートルの用地については、地主から譲渡または借地権の設定を受ける予定であったものの、現実には殆ど確保されておらず、地元の関係者の承諾を得べく交渉している段階にあった。右現地における交渉については、羽鳥、渡辺義雄(以下「渡辺」という。)らが担当していたが、同人らは、ゴルフ場開設の知識も経験もなく、小鹿野町長が本件ゴルフ場開設に好意的であったことから、いずれ用地の確保はできるものと楽観し、また、特に地元である埼玉県にゴルフ場新設についての規制について問い合わせたり指導を仰ぐこともなかった。

(三) 被告松島、大久保、羽鳥らは、住友建設株式会社の関係者も交え、本件ゴルフ場開設事業の所要資金は総額約三三億四〇〇〇万円と見積もったが、同時に、右資金の調達については、用地確保及び造成工事の費用も含めて殆ど全額を会員募集による入会保証金をもってまかなうものとの資金計画を立て、このほかには訴外会社設立前に準備金として約五〇〇〇万円を被告会社から借り入れたのみで、他に銀行融資等の確実な融資の手配もしていなかった。

(四) 被告松島らは、当初、地主の承諾さえ得られればゴルフ場の開設は可能と見込んでいたが、訴外会社の設立当時、すでにゴルフ場の乱開発に対して自然保護等の見地からこれを規制しようとする行政の動きがあり、訴外会社設立直後の昭和四八年二月二六日、本件ゴルフ場予定地の所在する埼玉県においては、自然保護等の見地から、「ゴルフ場等の造成事業に関する指導要綱」(以下「指導要綱」という。)が定められ、事業者は、法令上必要な許認可のほかに、市町村長の付意見を経由して知事に対して造成事業申出書、造成事業設計書等を順次提出し、その審査を受け、協定を締結し、かつ、用地を確保した後でなければ造成事業に着手してはならないものとされるに至った。

本件ゴルフ場は、その予定用地の約三〇パーセントが小鹿野町にあり、残り約七〇パーセントもの用地は吉田町に位置していたものであるが、吉田町においては、これに先立ち同町で開設されたゴルフ場の用地確保の仕方等が地元の反感をかっていたことなどから、吉田町の町長は、訴外会社の本件ゴルフ場の造成事業申出書に対して賛同せず、また、地主との交渉も難航したが、被告松島及び大久保らは、現地における交渉を担当する羽鳥らから、吉田町長については地元政治家等を通じていずれ説得できる旨の楽観的な報告があり、また、本件ゴルフ場の会員は多数集まる見込みがある旨の報告があったことなどから、結局、吉田町長や未確保用地の地主については会員募集をしながら説得していくこととした。

(五) 昭和四八年春、被告松島らは、未だ本件事業について指導要綱上必要とされる手続きの第一段階である造成事業申出書に対する町長の賛同意見すら得られず、また、ゴルフ場建設にとって不可欠の用地については、その多くの部分について地主の借地権設定の承諾すら得られぬ段階のまま、本件ゴルフ場のパンフレット等を印刷し、昭和四八年九月着工、昭和四九年一一月完成の旨を広告し、被告会社に委託して、いわゆる縁故募集(入会金一〇〇万円)を開始した。右募集開始後ほどなく、被告松島は、用地の確保は非常に困難であり、本件事業の成功の見込みは低いものと判断し、あくまで事業の継続を主張する大久保と意見の対立をみたことなどから、昭和四八年四月五日、訴外会社の取締役を辞任するに至った。

(六) 会員募集については、工事着工前に縁故募集として一〇〇万円で三〇〇名募集し、以後、工事の進行に応じて第一次会員募集として一五〇万円で三〇〇名、第二次会員募集として一八〇万円で三〇〇名というように漸次入会保証金の額を高額にしながら数次にわたり募集し、合計三三億四〇〇〇万円の入会保証金の預託を受ける計画を立てていたが、前記(五)の縁故募集は、昭和四八年の前半は比較的応募が多かったものの、同年秋頃になると、この頃発生したいわゆるオイルショックの影響や、本件事業が当初広告した着工予定時期を過ぎても本件事業の造成申出書に対する吉田町長の賛同意見も得られず、用地の確保もできず、従って工事未着工の状況にあったことなどから、応募が激減し、結局、縁故募集により三九六名合計三億九三九七万円(一人あたり一〇〇万円内外)の入会保証金収入が得られたのみに終わり、訴外会社の資金の利用、管理の杜撰さもあって、もともと入会金を唯一の資金源とする訴外会社の資金繰りは苦しくなった。

その後、大久保らは、吉田町部分を諦め、本件ゴルフ場の予定地域を小鹿野町地内に局限し、該地域で地主の借地権設定の承諾を得べく交渉し、指導要綱に基づき小鹿野町長の賛同意見を経由して知事に対して造成事業申出書を提出するなどしたが、結局、用地全部の確保もできず、指導要綱による手続きの最終段階まで至ることができず、従って工事に着手できないまま、昭和五一年一〇月二〇日、銀行取引停止処分を受けて倒産した(右倒産の事実は当事者間に争いがない。)。

三  以上認定の事実によれば、訴外会社が倒産するに至ったのは、いわゆるオイル・ショックの影響もあったことは否定できないが、より根本的には、大久保、被告松島らにおいて、事前にゴルフ場の開設に関する法規制及び行政指導の現状と改定の可能性等について極めて不十分な調査しかなさなかったうえ、未だ予定地の多くの部分で用地確保ができず、また、本件造成事業について本件ゴルフ場予定地の約七〇パーセントの立地する吉田町の町長の賛同を得ることも困難な状況にありながら、漫然、会員募集を開始し、しかも、右会員募集による入会保証金収入のみを、右未確保の用地の獲得やゴルフ場建設工事等の事業資金にあてることとしていた事業計画の杜撰さ自体に主因があり、その結果、地主との交渉や吉田町の町長の説得が困難で、ひいては本件造成事業開始のために必要な指導要綱所定の要件を具備して法令上要求される許認可を得ることができぬうちに、応募会員も激減し、既に募集した会員の入会保証金や譲渡を受けた又は借地権を取得した用地等の会社資産をも費消して、倒産するに至ったものというべきである。

四  そうであるとすれば、被告松島は、本件ゴルフ場開設事業のように多額の資金を要し、利害関係者も多数に及び、様々な法的規制及び行政指導に服する大規模な事業を企図する訴外会社の設立時の取締役として、会員募集に先立ち、ゴルフ場開設予定地域内の地主や行政主体との事前協議を十分になし、用地の確保とゴルフ場開設のための指導要綱所定の要件の具備及び法令上必要な許認可の取得の確実な見込みを得ておくべきであり、かつ、右事業資金の調達については、客観的合理的な資金計画を立案すべきであったのに、これらを怠り、会員募集による入会金を殆ど唯一の事業資金源とする資金計画を立案したうえ、用地確保も、開設予定地域所在行政主体との交渉も非常に難航していることが明らかでありながら、立地計画の変更や会員募集開始時期の延期などの措置をとらず、漫然、代表取締役大久保が会員募集を開始するに任せていたのであるから、被告松島は、取締役としての職務を行うにつき重大な過失があったものというべきである。

五  そして、被告松島の右職務懈怠と原告らの損害との相当因果関係についてみるのに、前記三の訴外会社の倒産の原因に鑑みれば、被告松島の右職務懈怠が訴外会社の倒産の一因であることはこれを否定することはできないが、叙上認定の事情からすれば、被告松島が取締役を退任した後、訴外会社において会員募集の続行をなすか否か、ないしは、事業計画又は資金計画を変更するか否かは、第一次的には残された役員らにおいて判断すべき事項であり、これについては被告松島の取締役としての職務の権限及び責任の及ばぬものというべきであるから、被告松島は、同被告が訴外会社の取締役に就任していた期間内に入会契約を締結した者に対してのみ、商法二六六条の三第一項による責任を負うものというべきである。

右見地によって原告らのうちで右に該当する者は、被告松島が取締役を退任した昭和四八年四月五日までに本件各契約を締結した、原告佐藤喜市(別表中の原告番号1。以下番号のみを表示する。)、同今西常夫(5)、同中條富夫(21)、同木田俊吉(22)、同今鉾博男(26)、同土屋允(27)、同田中德夫(32)、同山本薫(38)、同湊道夫(50)、同橋本哲雄(51)、同青木貞敏(55)、同米内山義正(62)、同大里政枝(78)、同笠原昭夫(79)及び同戸里蓁(82)の一五名に限られるから、被告松島は、これら一五名の原告らに対し、商法二六六条の三第一項に基づく損害賠償をなす責任があるが、右原告ら以外の原告らに対しては、責任を負わないものといわざるを得ない。

六  そこで、右原告ら一五名の損害について判断する。

(一)  一、四認定の事実からすれば、同原告らは被告松島の取締役としての職務懈怠により少なくとも別表欄記載の入会保証金各一〇〇万円相当額の損害を被ったことが認められる。

(二)  また、弁論の全趣旨によれば、同原告らが被告松島から任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起遂行を委任するを余儀なくされ、その報酬を支払うことを約したことが認められるが、本件事案の難易、審理経過、(一)認定の損害額その他本件において認められる諸般の事情を考慮すれば、被告松島の取締役の職務上の義務懈怠と相当因果関係のある賠償損害としての弁護士費用は、右各原告らにつきそれぞれ一〇万円をもって相当と認める。

七  よって、原告らの被告松島に対する請求は、前記五の一五名の原告らについては右六の損害額合計である各一一〇万円とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五四年一〇月一五日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、右原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求はいずれも失当である。

第二(被告会社に対する請求)

一  請求原因1、3(順次に、当事者等、訴外会社の債務の履行不能)の事実は当事者間に争いがなく、請求原因2(訴外会社・原告ら間の本件各契約の締結)の事実の認められることは第一(被告松島に対する請求)の一認定のとおりであり、そうであるとすれば、原告らは訴外会社の債務不履行により少なくとも請求原因4(一)(入会保証金相当額の損害)の損害を被ったことを認めることができる。しかし他方、同4(二)(弁護士費用)については、これを訴外会社の債務不履行と相当因果関係のある損害ということができない。そして、請求原因5、6(順次に、訴外会社の被告会社に対する貸金債権の存在、訴外会社の無資力)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁(相殺)について検討する。

1  《証拠省略》によれば、被告会社と訴外会社との間で、昭和四八年四月一日、訴外会社は被告会社に対して本件ゴルフ場の会員募集及び広告宣伝の各業務を委託し、被告会社に対し、本件ゴルフ場入会者の預託した入会保証金の一五パーセントの金員を手数料として支払う旨の本件委託契約が締結されたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2  しかし、被告会社が広告宣伝費として七〇五八万五〇一〇円の支出をなしたとの主張事実はこれを認めるに足りる証拠がないうえ、仮に右支出がなされたとしても、そもそも前記1認定の約定の本件委託契約においては、被告会社の広告宣伝費の支出自体が被告会社の損害となりえないことはいうまでもないのであって、他に被告会社がなんらかの訴外会社の債務不履行による損害を被ったことはこれを認めるに足りる証拠はなく、かえって、《証拠省略》によれば、被告会社が現実に募集した会員の預託した入会保証金については、訴外会社から被告会社に対して一五パーセントの手数料が現実に支払われていることが認められるのであるから、結局、被告会社主張の損害の発生の事実はこれを肯認することができない。

3  従って、その余の点について判断するまでもなく、被告会社の抗弁は理由がない。

三  そうであるとすれば、原告らは、訴外会社に対し、債務不履行に基づき、それぞれ別表欄記載の金額の損害賠償債権を有し、その合計額は八四九〇万円であって、訴外会社の被告会社に対する本件貸金債権六三五〇万三七〇七円を上回ることが明らかである。

四  よって、原告らにおいて、被告会社に対し、本件貸金債権を、その総額六三五〇万三七〇七円を各自の損害賠償債権に応じて按分した額の範囲内である別表欄記載の額あてそれぞれ代位行使する原告らの被告会社に対する本訴請求は、いずれも理由がある。

(結論)

以上のとおりであって、原告らの被告松島に対する請求は、原告佐藤喜市、同今西常夫、同中條富夫、同木田俊吉、同今鉾博男、同土屋允、同田中德夫、同山本薫、同湊道夫、同橋本哲雄、同青木貞敏、同米内山義正、同大里政枝、同笠原昭夫及び同戸田蓁についてはいずれも第一の七記載の限度で理由があるからこれを認容し、右原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求はいずれも失当であるから棄却することとし、原告らの被告会社に対する請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用については、民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋弘 杉原麗 裁判長裁判官薦田茂正は、転補のため署名捺印することができない。裁判官 大橋弘)

<以下省略>

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